大宮市農業協同組合本店
WORKS

トリックスター
この建築がある大宮市は、過密化する首都圏が農村地帯と接する境界線上に位置している。最近までこの町の郊外に青々とした田園が広がっていたが、急速な都市化によって次々と住宅やマンションに変わってきた。そして、この敷地の周辺も地区計画が導入され、新しい町並み景観の形成が意図されている。また〈まちづくり〉が語られ、地域のアイデンティティが模索されているが、農業協同組合は幅広く、多くの市民と触れ合う機会があり、そして伝統的に地域に密着している組織であるため、そのような〈まちづくり〉を担う主体の一つに十分なりうるものである。したがって、この建築は、コミュニティ施設の側面をもっている。つまり、ピロティと柱脚の列が街路に解放されて、街区の空間にゆとりを与え街角のパフォーマンスとなっている。建築は二つに分けられ、東側は、事務室、会議室の空間をダイアゴナルなフレームによって構成し、曲面の金属屋根が架けられている。一方西側は、支店、役員室などの小空間を積み重ね、方形の屋根と円形の吹放ちによって東側と対立し、かつコアによって合体している。
しかし、そのような計画的手法(可視的、計量可能な現実に対象を限定して、実証的に空間を計画し、説明する手法)には限界があることが、既に気が付かれている。どこでも同じような明るい街並み。とりわけ再開発による〈まちづくり〉は退屈なものである。したがって、この建築においては、街区を計画することよりも、街区を刺激し揺り動かして、都市に潜む深層を開放することが意図されている。
この街の日常的な風景の中で、この建築は、金属の屋根に包まれた胴部と、ピロティの折れ曲がった柱脚によって、着陸した宇宙船と言われている。また、あるときには、カブトムシの頭と足と胴だと言われることもある。宇宙船にしてもカブトムシにしても、科学と自然、無機と有機、という意味では異なるが、精密に動き回るモノという点で共通性がある。折れ曲がった不整形の柱が着地した足を連想させ、金属質の屋根が外殻を連想させるのであろう。そのイメージは、市街地にあって周辺の常識的建築と対立し、異様なものであり、街角から飛び立とうとするその動的な雰囲気は周りの空気を攪乱するようである。つまりこの建築は、外殻に包まれ、その内にさまざまな機能を予期させる複合体であり、動きを感じさせる形態をもっているわけである。それを表現しているのは、建築を支える構造のシステムであり、複数の構造システムの組み合わせによる多様さによって、また力学的な自然さによって、この建築の形態は有機的なものとなっている。
ところで、そのような有機的形態は、一般的に建築とか都市といった人工的なものと対立するイメージであり、この建築には、科学と自然、無機と有機(宇宙船とカブトムシ)といった対立するイメージが、同時に重ねられているといえる。農業協同組合が、都市と農村という二つの対立する社会に対応した両義的組織であるように、この建築は両義的なのである。山口昌男氏によれば、対立する二つの価値を仲介する両義的な存在は、異様な様をしたトリックスターであり、日常的世界に潜在された構造的対立を機知と暴力性によって浮かびあがらせると言われている。文化的には〈周縁〉といわれるこの地域に出現したこの建築は、その異様さといい、その両義的性格といい、トリックスターたる資質があると言えるであろう。柱と梁はトリックスターの骨格であり、ピロティの柱脚は、飛び歩く足であり、また木質で仕上げられた内部空間は、胃袋であり肺であるのかもしれない。いずれにしても、トリックスターとして街区を刺激し揺り動かし続けることを願っている。

構造計画折面アーチの構造-増田一眞
構造に関する法規制が、建築計画をも規制するというのはありうべきことではないが、ピロティが少なくなったのは新耐震設計法とは無関係のことなのだろうか。新耐震は構造計画の質を要求しているだけであるのに、しかもある種の形態を排除しているかのように扱われる(役所の窓口では)ことが多いのは、遺憾なことである。ピロティやキャンティレバー、長大スパンなどは、構造計画者にとって、依然として魅力ある課題であるだけでなく、建築計画にとっても永遠のテーマであるだろう。駐車スペースと広場を兼ねたピロティを要求した農業建設委員会の卓見を、まず讃えなければなるまい。
17mスパンの2層分の階高のピロティをどう設計するかが、この建築の最大の課題であった。構造スタディの主要なポイントとしては、誤解を恐れずに言えば、「曲げ応力をいかにして減らすか」に尽きる。曲げに抵抗するには部材丈を増やさねばならず、丈を増やすと自重の増大を招来するという悪循環に巻き込まれるからである。最も単純な解決は柱を多く建てることだが、これはピロティの機能を損うことになる。そこで考えられるのはアーチシステムである。アーチは長大スパンを軸力のみで伝達することは、誰でも知っている。6m余の階高を利用すれば、十分可能なことである。当初、斜交アーチ群だけを考えていたが、こんな案はどうですかと、デザイナー側から提示された模型を見たとき、一瞬驚いた。壁板を部分的に用いたこの方式が、実に美しかったのである。それは長大スパンを可能にしているアーチや吊り橋の曲線美もさることながら、斜張橋が出現してきり開いた、あの緊張美に似ていた。一種の折線アーチとも名づけるべきこの形態は、据野が水鳥の水かきに似て薄膜で出来ていることと、それらが斜交して連続的な折板を形成しているところに、その特徴があり、不思議な陰影とリズミカルな空間の実現を可能にしている。構造的発想を天職と心得る小生だが、この案には完全に脱帽した。永峰綜合計画の仕事は、構造のスダディを重視することに特色があるが、チーフアーキテクト小谷野氏は日頃サンチャゴ・カラトラヴァやレンゾ・ピアノの仕事を尊敬し、自らもさまざまのアイデアを出している、意欲十分の創造力と感性豊かなよき建築家である。この案が出たことで、3階床梁の軽量化も一気に解決してしまった。それは2階梁と三角形の壁板の交点にピン支柱を設けて、3階の斜交格子を支持させることで解決した。この方法は、アーチ案のように連続分布の荷重を前提とした架構では、集中荷重を加えることができないから、当初の案では不可能であった。アーチ案で進めるときは。3階床は別に考えるほかなかった。計画は正に、画龍点晴ともいうべきポイントがあると言える好例である。
残るは屋根のみであるが、ここでも軸力系を選び、平面的には骨組みを斜交させて、骨組みだけで面剛性を保つ方式とし、さらに屋根を鉄骨母屋と金属板で処理して軽量化を徹底した。柱と壁までをRCとし、屋根を鉄骨とするのは常蚕手段であるが、屋根フレームまでRCとすることで、内部空間の緊張感は増すと思われる。骨組みを隠すことなく、デザイン化する発想が、最上階においても捨てなかった基本思考なのである。
ピロティ上部の最上階は異形のフェーレンデール桁とし、奥の4層の事務空間の最上階は、中央に正方形のトップライトをもつ方形屋根とした。方形の棟梁に加わる圧縮力は、周梁をテンションリングとして引張り抵抗に期待している。
先ほど異形のフィーレンデール桁と呼んだのは、原理的には垂直材をもつダブル梁の抵抗機構であるが、片側で梁丈が激減するのでその部分を偏平梁として扱い、その両者の接合部分の応力伝達に腐心したからである。
基礎は折板形式のベタ基礎を考えていたが、全体としてかなり計量な架構となったので、布基礎で対処した。幅4mの布基礎は、ピロティの三角状の下部柱を受けるうえでも、適合性がある。