盆栽村の家

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盆栽村の家

周辺は、盆栽村といわれる静かな緑の濃い住宅地であり、戦前からの伝統的な盆在園が集まっている。氷川神社、大宮公園につながる一画として風致地区に指定されており、大宮市の座敷とでもいう地域である。
敷地はL字形をしており、門、ゲートを南に配し、敷地西側部分に2室の和室と庭とを配した。というのも、川鍋さんの家は江戸時代から中仙道大宮宿で脇本陣を務めた家であり、昭和の初期に建てられた家の奥座敷2室を移築して継承したいとのご希望であり、従来どおりに南面した2室を、庭とともに配置したのである。したがって、アプローチは南から北に細長くなり、遠近法を強調した空間として設計してみた。訪れる親戚の人たちは、この和室で一様にちょっとしたタイムトンネルを経験して心が落ち着くそうである。半世紀を経たふたつの時代を重ねられた家ともいえる。代々の御本家を継がれる賢明な判断であろう。
「とにかく、遊んだ思い出が残る廊下でいいですよ」そんな話からスリット型の吹抜けに廊下と階段をからませたホールをこの家の核とし、あの和室に対抗した存在感を感じさせる空間とする。トップライト、階段の高窓、そして大きな2層分の開口部からと、上下左右から光を取り入れた、周囲の景観も取り込もうと玄関の前は隣の庭を借景。スリットの延長がL字中央部の食堂であり、食堂を軸として居間と和室が直角に対応し庭に面する。お友達が多いからというお話で、友人が訪れ歓談する居間は電気パネル床暖房を設け、ちょっとしたサロンとして快適のようである。2階の個室もスリットの周囲に配置された。
壁面はタイルとタモの練付け板で仕上げられている。いずれも同一面の上で変化をつけ、タイルは寸法の違う同じタイルを張りわけ、タモ板は同材の枠で分割されて張られている。居間の扉の周囲はトラバーチン。素材も年月も沈澱させるだろう。
外回りは列柱と水平線で構成し、消失点に向かって玄関に近づく。柱のリズム。視線は居間の開口部が受け止めつつ水平線に導かれて庭園に連続するように意図した。
育ち盛りの子供を含めた4人家族が時とともに成長していきながら、いつか記憶の断片をつないで心の底に戻れるような“家”、そんな空間を心がけたが、タイルの壁は子供たちの記憶にとどまるだろうか。そして昭和初期の住宅に半世紀を経て重ねられた現代住宅がまた次の世代に引き継がれていくだろうか。

所在地
埼玉県さいたま市
用途
住宅
敷地面積
713.69㎡
建築面積
285.45㎡
延床面積
424.49㎡
構造
RC造 地下1階・地上2階建
竣工年
1985年

△新建築 住宅特集 1987/3